不動産を売却するときに「消費税の納税が必要?」「節税する方法はないの?」など気になりますね。
特に、不動産は取引金額が大きい分納税額も多いので、消費税の存在を忘れてしまうと後々大変なことになります。
結論をお伝えすると、不動産取引では消費税が「かかる人」と「かからない人」が存在します。
納税義務があるかどうかは、「売主の立場」によって変わるんです。
この記事では「どんな売主に納税義務があるのか」をはじめ、以下の内容について詳しく紹介します。
- 消費税の計算方法
- 売却に付随して消費税がかかるケース
- 「納付時期」や「仕訳方法」
安心して売却できるように、不動産売却にかかる消費税についてチェックしてみてください。
不動産売却で消費税がかかるのは「課税事業者」のみ
不動産を売却するときに消費税がかかるのは「課税事業者だけ」です。
課税事業者とは、事業を行う「個人」又は「法人」を指します。
なので、課税事業者でない「個人(免税事業者)」が不動産を売却しても消費税は徴収されません。
ちなみに、不動産売買における消費税の課税対象は「建物だけ」であり、「土地」にはかかりません。※次章で詳しく説明します。
土地には「消費する」という概念がなく、「非課税取引」に分類されているからです。
国税庁のホームページにも記載されています。
画像引用:国税庁ホームページ「非課税となる取引」
以上をまとめると次のように表せます。
土地にかかる消費税 | 建物にかかる消費税 | |
---|---|---|
売主が「免税事業者(個人)」 | 免税 | 免税 |
売主が「課税事業者(個人や法人)」 | 非課税 | 課税 |
つまり、不動産売却における消費税は、売主が「課税事業者」のときに「建物のみ」に対して支払いが発生するということです。
続いて、課税事業者となる条件についてお伝えします。
「個人」と「法人」それぞれ紹介するので、当てはまる方をチェックしてください。
消費税が課税される「個人」の事業者
消費税が課税される「個人」の事業者の定義は、以下2パターンのいずれかを満たしているときです。
- 前々年の課税売上高が1,000万円超の場合
- その年の前年の1月1日から6月30日の売上げが1,000万円を超えた場合、または給与支給額が1000万円を超えた場合
上記のどちらにも該当しなければ、「免税事業者」になり納税義務はありません。
もし、普段は会社員として働いている人が、副業大家さんとして上記に該当するような場合は「課税事業者」として扱われるので注意が必要です。
また、繰り返しになりますが、不動産売却において課税事業者ではない個人は免税であることは押さえておいてください。
消費税が課税される「法人」の事業者
消費税が課税される「法人」の事業者の定義についても、以下2パターンのいずれかを満たしているときです。
- 前々事業年度の課税売上高が1,000万円超の場合
- 事業年度の前事業年度開始の日以後6ヶ月の売上げが1,000万円を超えた場合、または給与支給額が1,000万円を超えた場合
上記どちらにも該当しなければ、「免税事業者」となり納税義務はありません。
ただし、免税業者に当てはまるときも「資本金が1,000万円以上」だと納税義務が発生するので注意してください。
箇条書き赤字の部分は、個人の事業者と異なる箇所なのでしっかりと区別しておきましょう。
不動産売却における消費税の計算方法は?
ここでは、不動産売却における消費税の計算方法について解説します。
手順は以下の通りです。
- 建物価格を調べる
- 建物価格だけに消費税率をかける
前章でもお伝えしましたが、不動産売買における消費税算出のポイントは、「課税対象は建物だけ」である点です。
「事業者」「個人」に関わらず、原則土地には消費税がかかりません。
具体的に計算方法を見ていきます。
例えば、税抜き価格で5,000万円(建物2,000万円・土地3,000万円)の物件があるとします。
その場合、消費税は建物2,000万円のみにかかるので200万円です。(消費税10%の場合)
この200万円を税抜き価格5,000万円に加えて、売却価格は税込みで5,200万円となります。
もし売却にあたり「建物」と「土地」の内訳がわからないときは、「固定資産税評価額」や「相続税評価額」をもとに算出することが可能です。
上記の説明でわかりにくい場合は、税務署に問い合わせるか、売却を依頼する不動産会社の担当者に相談してみてください。
不動産売却に付随して消費税がかかる4つのケース
ここからは、不動産売却に付随して消費税がかかるケースを紹介します。
- 仲介手数料
- 住宅ローンの繰り上げ返済手数料
- 登記費用
- 固定資産税の精算金
上記(1)~(3)については、事業者かどうかに関わらず「利用者全員」に支払い義務があるので要チェック。
(4)については、事業者の人だと取り扱いには注意したいところです。
【1】仲介手数料
仲介手数料とは、不動産の売買が成立したときに不動産会社に対して支払うサービス料です。
この仲介手数料には、一律消費税がかかります。
仲介手数料は、売却する不動産の価格によって支払う代金が変わります。
売却時の取引額 | 仲介手数料(税抜き) |
---|---|
200万円以下の部分 | 取引額の5%以内 |
200万円超~400万円以下の部分 | 取引額の4%以内 |
400万円超の部分 | 取引額の3%以内 |
例えば、売買代金が5,000万円の不動産を売却した場合の計算式は以下のようになります。
- 200万円までの部分 → 200万円 × 5% = 10万円
- 200万円超~400万円以下の部分 → 200万円 × 4% = 8万円
- 400万円超 → 4,600万円 × 3% = 138万円
上記(1)~(3)の赤字の合計156万円が総額になり、それに消費税10%を掛けた約171万円が実際に支払う仲介手数料です。
ちなみに、400万円以上の物件の仲介手数料を知るには「売買代金 × 3% + 6万円 + 消費税」の速算式を使うと簡単です。
仲介手数料は、不動産会社に依頼すると絶対にかかってくるのでか必ず覚えておきましょう。
【2】住宅ローンの繰り上げ返済手数料
売却時に住宅ローンが残っているときは、売却したお金でローン残高をゼロ(全額繰り上げ返済)にする必要があります。
その全額繰り上げ返済にも手数料がかかり、合わせて消費税がかかります。
手数料の金額は金融機関によってさまざまですが、「55,000円(税込)」のところが多いです。
詳しい手数料額を知りたい人は、金融機関に「全額繰り上げ返済の手数料はいくらですか?」と、問い合わせをしてみてください。
ちなみに、残高の一部分を返済する「一部繰り上げ返済」は、ほとんどの金融機関が無料です。※インターネットバンキングからの手続きが必要。
下記の記事では、住宅ローンが残っている不動産の売却について詳しくまとめています。
気になる人はチェックしてみてください。
【3】登記費用
不動産を売却するときは「所有権の移転登記」や「住宅ローンの抵当権の抹消登記」などの登記手続きが必要です。
登記手続きは基本的に司法書士が行いますが、その際にかかる司法書士への報酬部分にのみに消費税がかかります。
下記は、売却にかかる登記費用の見積書の例です。
売却にかかる登記費用をまとめると以下の通り。
- 「登録免許税」又は「印紙税」 → 非課税
- 司法書士への報酬 → 課税(税抜表示)
- 「交通費」や「登記事項証明書発行費用」 → 課税(税込表示)または非課税
登記に関しては、慣れていれば自分で手続きすることもできます。
しかし、たくさんの書類を集めたり、手続きが煩雑だったりするので司法書士に任せておくのが無難です。
固定資産税の精算金
固定資産税の精算金については、十分に注意したいところです。
通常、固定資産税などの税金には消費税はかかりません。
しかしながら、売主が課税事業者だと、「固定資産税の精算金」のうち建物部分については消費税の納税義務が発生します。
不動産売買で行われる固定資産税の精算は、買主が引渡し以降の未経過分を売主に支払うという「名目」で行われます。
上記の精算はあくまでも「名目」なので、実際に取り交わしされる精算金は、会計上「税金」ではなく「売買代金の調整費(関連費)」として処理されるんです。
なので、「固定資産税 = 非課税」だから、「固定資産税の精算金 = 非課税」だと勘違いしないようにしてください。
もし、固定資産税の精算金にかかる消費税について、「買主に負担してもらいたい」場合は、売買契約を取り交わす前にアナウンスが必須です。
買主が一般の人だと、「固定資産税の精算金に消費税がかかるとは誰も思っていない」からです。
なので、契約のあとで告知するようなことになれば、確実にトラブルになります。
上記については、「売却を担当する不動産会社の担当者」や「会計処理を任せている税理士・会計士」に相談することをおすすめします。
不動産売却における消費税の「納付時期」は?
もし、あなたが課税事業者で消費税の納税義務があれば、納付する時期は次の通りです。
- 個人事業者は翌年の3月末日まで
- 法人は課税期間の末日の翌日から2か月以内
「個人・法人」それぞれに、上記の時期までに「消費税」と「地方消費税」を併せて所轄税務署に申告・納付する必要があります。
注意点としては、直前の課税期間の消費税額が「48万円を超える」場合は、「中間申告」と「納付」をしなければいけない点です。
詳しくは以下のようになります。
直前の課税期間の消費税額 | 中間申告・納付回数 |
---|---|
48万円超400万円以下 | 年1回(直前の課税期間の消費税額の2分の1) |
400万円超4,800万円以下 | 年3回(直前の課税期間の消費税額の4分の1ずつ) |
4,800万円超 | 年11回(直前の課税期間の消費税額の12分の1ずつ) |
なので、課税事業者である期間に「480万円超」の建物を売却し、翌課税期間も課税事業者だとすれば、翌課税期間に「中間申告」と「納付」が必要です。
消費税については、決められた納付時期に「申告や納付をしない」「間違った申告をする」と、「加算税」や「延滞税」の支払い義務が出てきます。
なので、納付時期・方法についてはくれぐれも注意したいところです。
不動産売却における消費税の「仕訳方法」は?
不動産売却で発生した消費税は、「仮受消費税」の勘定科目で処理をします。
気をつけるべきポイントは、「仮受消費税」は「消費税の課税対象である建物の仕訳でしか使用しない」点です。
なので、土地の仕訳には使用できません。
具体的に、5,300万円の戸建て(土地2,000万円・建物3,300万円)を売却して「土地・建物ともに売却益が発生した場合」で仕訳をしていきます。
【土地の仕訳】帳簿価格が1,500万円
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
現金預金 | 2,000万円 | 土地 固定資産売却益 | 1,500万円 500万円 |
※売却益は「固定資産売却益」の勘定科目で処理します。
土地は非課税なので「仮受消費税」は計上されず上記のような仕訳になります。
【建物の仕訳】帳簿価格が2,000万円
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
現金預金 | 3,300万円 | 建物 仮受消費税 固定資産売却益 | 2,000万円 300万円 1,000万円 |
建物の仕訳では、現金預金3,300万円に「10%の消費税」が含まれているので、その分を「仮受消費税」として計上する必要があります。
今回紹介したケースは、数ある取引の中の1つです。
別のケースを知りたい人は、「税理士」や「税務署の担当者」に確認するようにしてください。
「簡易課税制度」を利用するには?
不動産を売却して消費税の納税義務が生じたとき、「簡易課税制度」を利用すると納税額を圧縮できる場合があります。
簡易課税制度とは中小事業者の納税事務負担に配慮する観点から、売上げに係る消費税額を基礎として、仕入れに係る消費税額を計算できる制度です。
不動産の売却でも簡易課税制度が利用でき、「計算が簡単になる(時間の短縮)」「納税額を圧縮できる」などのメリットがあります。
簡易課税の計算では、「みなし仕入率」を用いて最終的な消費税額を算出します。※詳しくは、国税庁ホームページ「No.6505 簡易課税制度」を参照ください。
「みなし仕入率」は、業種によって6つに区分されており以下の通りです。
事業区分 | みなし仕入れ率 | 業種 |
---|---|---|
第1種事業 | 90% | 卸売業 |
第2種事業 | 80% | 小売業 |
第3種事業 | 70% | 農業、林業、漁業、建設業、製造業ほか |
第4種事業 | 60% | 第1・2・3・5・6種以外の事業(飲食店業など) |
第5種事業 | 50% | 運輸・通信業、金融・保険業、サービス業(飲食店業を除く) |
第6種事業 | 40% | 不動産業 |
不動産業は「第6種事業」に分類されていますが、「全ての不動産取引がそこに該当する訳ではない」ことに注意が必要です。
不動産業とは言っても、下記のように業態がさまざまあるからです。
- 不動産販売業・・・ハウスメーカーなど
- 不動産仲介業・・・売買仲介、賃貸仲介
- 不動産賃貸業・・・不動産オーナー、投資家
- 不動産管理業・・・管理会社
例えば、ハウスメーカーが自社の住宅を販売するときは建設業に該当するので「第3種事業」になり、不動産賃貸業の場合は「第5種事業」に分類されます。
また、簡易課税制度を利用するためには、以下の3つの条件があることも知っておいてください。
【簡易課税制度を利用するための条件】
- 適用しようとする課税期間の初日の前日までに「消費税簡易課税制度選択届出書」の提出が必要
- 基準期間(個人事業者は前々年、法人は前々事業年度)における課税売上高が5,000万円以下
- 簡易課税制度を利用すると、その後2年間は継続して適用し続けないといけない
簡易課税制度は、「納税額を圧縮できる」など利用にあたってはメリットが大きいことは確かです。
しかし、ちゃんと調べないと「長期的には制度を利用しないほうが納税額が安いケースもある」ので、必ず事前に確認するようにしましょう。
【まとめ】不動産売却における消費税の有無は優秀な不動産担当者に相談を!
不動産を売却するときは、課税事業者のみ消費税の納税が必要です。
なので、事業者ではない個人間の取引では消費税はかかりません。
その他、不動産売却に関連する消費税について注意すべきポイントは以下の通りです。
- 消費税がかかるのは「建物」だけで「土地」にはかからない
- 売買に付随して「仲介手数料」や「ローンの繰り上げ返済」にも消費税がかかる
- 消費税は納付時期が決まっており、過ぎてしまうと「加算税」や「延滞税」が生じる
- 簡易課税制度を利用すると節税効果が期待できる
ここまで紹介してきたように、消費税ついては「相当な専門知識」が必要です。
中途半端な知識のまま動けば、「納税できない」や「納税時期を過ぎていた」などという小さなミスから、「加算税」や「延滞税」を徴収されるリスクがあります。
なので、無理して独断で動くのではなく、少しでも不安なところがあれば、信頼できる不動産担当者や税理士に遠慮なく相談したほうが確実です。
正直、優秀で信頼できる不動産担当者がいれば、お抱えの税理士もいるので、このような税金関係の複雑な問題に、あなたが頭を悩ませる必要はありません。
もし、今あなたに優秀な不動産担当者がついていないなら、まずは査定を行って優秀な担当者を見つけるところから始めてみてはいかがでしょうか?
ちなみに、当サイトでは、不動産担当者を探すときは「一括査定サイト」の利用を推奨しています。
いきなり一括査定サイトと言われても困ると思いますが、現状、不動産売却前には一括査定サイトを使って査定するのが一般的になっています。
「賢く売却している人」は漏れなく、一括査定サイトを使って「査定額」と「担当者」の比較から行っています。
一括査定サイトの利用がどれほど重要なのかについては、以下の記事で詳しく書いているので、興味があれば読んでみてください。
それでは、ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
不動産売却アカデミー編集部